またデモ音源返事なし??事務所が欲しいと思う作曲家とはどんな人材か【その2】

プロの作曲家への登竜門として最もポピュラーなのが事務所へのデモ音源送り、オーディション、コンペ。
しかし不合格でもどこが悪いか教えてくれないのが普通で、そんな中合格できるように奮闘するのはまさに雲をつかむような話。多くの人が悩まれると思います。
今回はそんな事務所所属をかけたオーディション裏話の第二弾です!

3 とはいえある程度のクオリティは必要

前半戦ではクオリティよりもセンスが大事だと言いました。クオリティの高いだけの作品よりクオリティが低くてもセンスのある作品の方が事務所は好感を持つと言いましたね。

しかしながらある程度のクオリティがないとセンスがあるかどうかも測る事ができません。
そして必要最低限度のクオリティはある程度センスと結びついています。

センスのある人とは即ち自分の音楽を持っている人です。
自分の音楽を持っている人とは即ち人の音楽を深いレベルまで掘り下げて聞けている人です。
今の時代完全にオリジナルの新しい音楽性を持った曲を作れる人は一部の教科書に載るレベルの大天才を除けばいません。
大抵の天才作曲家は人の音楽を聴いてセンスを盗んで自分のものとして再構築できる人のことを言うのです。
ある意味センスの正体は人の音楽をどれほど日頃から深いレベルで聞けているかなのかとも言えます。

そうして注意深く普段から音楽を観察できている人ならば、あまりにも荒んな品質の音楽を作ることはないと言えます。
当然ですね、自分の好きな曲を注意深く聞きそのサウンドを目指している人がその好きな曲との品質の違いに気付かないはずがないからです。

今の時代1つの有料のDAWとある程度の有料プラグインとある程度の有料音源さえあればメジャー流通しているCDとして恥ずかしくないレベルの最低限度の音源は作れます。お高い機材や商業スタジオで録ったプロミュージシャンによる生演奏や超高級スピーカーで聞いてマスタリングするような事をしなくても最低限の音は数万円のソフトだけで作れます。
あなたと全く同じ環境でもプロがそのPCの前に座ればプロ品質のものを作ります。
自分の作った音源を正しいモニター環境でリスニングし、自分が目指したいサウンドと何が違うのか、注意深く観察しましょう。
それができていれば最低限度のクオリティです。

4 事務所だって会社。それぞれの会社に欲しい人材がある

日本は資本主義社会ですから音楽制作事務所だっていい音楽を作って入れば勝手にお金が入ってくるわけではありません。ちゃんと音楽という商品を販売して利益を得なければなりません。
つまり商業作曲家にはいい音楽を作れる事以上に商品として価値のある音楽を作れることを求められます。
ただかっこいい音楽を作るだけなら趣味で作っていればいいのです。

つまり、その事務所にとって必要な商品を作れる人が求められているという事です。
事務所にはそれぞれ強みがあります。それは社長の得意分野であったり、その会社が昔から懇意にしている会社さんとの付き合いであったりで決まります。
例えば社長さんが元ゲーム会社の社員ならゲーム会社時代のコネクションを生かしてゲーム会社さんと懇意にしているかもしれませんし、例えば同人音楽出身ならコミケやM3などで懇意にしているサークルさんがあるかもしれませんし、例えば元アイドルプロデューサーならアイドルが多く所属する音楽レーベル会社と懇意にしているかもしれません。
そうした懇意にしている取引先の会社さんの要望に答えられる人材をその事務所は探しているのです。

つまりアイドルが所属する音楽レーベル会社と懇意にしている事務所に対してシンフォニックなハリウッドサウンドを特徴としたデモ音源を送っても返事は来にくいという事です。
ただし既にその事務所の所属作家さんと毛色が丸かぶりしている場合もそれはそれで既に成熟して使える作家がいるのにその二番煎じのような作家は欲してはいないだろうから、難しい部分ではあります。

しかし全くの逆もあります。
それは例えば今まではアイドル系の楽曲ばかりを商品として取り扱って来ているが、所属作家さんも増えて来て会社も黒字経営で安定して来たのでもう一つ会社の規模を大きくしたいから今度はゲーム系やハリウッド系のサウンドが強い人材を育てていきたいと考えているパターンです。
ただそういう会社の状況を外部からみていて判断するのは難しいので、もうそればかりは運と巡り合わせになります。

では応募する側はどういった心構えでいれば良いのか。
私はこれに対して一つの持論を持っています。
「落ちたらまず自分を疑う。そして自分の作品クオリティと自分のセンスに自信があるのなら出会いがあるまで待つ」
という事です。
「運も実力のうち」という言葉ーーこれはとても的を射ていると思いますがそれは単に運に身を任せろという意味ではありません。
運を実力にできる人とは”自分に運が向くまで適切な努力をし、運が回って来た瞬間それを瞬時に「察知」し積み上げて来た努力を持って適切に「掴み取る」事ができる人”を指すのだと私は考えています。

人の巡り合わせやタイミングはどんな人にでも巡ってくるわけではないのでそれは運です。
しかしその運が自分に巡って来てもそれがチャンスだと気づけない人、気付いてもそれをものにできる実力がない人は沢山います。
事務所所属も半分はタイミングと巡り合わせですが、半分は実力です。
自分が事務所所属に失敗した時、それは単に巡り合わせがなかっただけなのか、それとも実力が伴っていなかったのか。どちらなのか正しく判断するため、日頃から常に自分や他の音楽を客観的に、そして深く掘り下げ観察しましょう。

おわりに:
いかがでしたでしょうか?少しは参考になりましたでしょうか?
いい曲を作るためには深いレベルで音楽を聴く事が必須になると思います。
勿論大衆視点を忘れないことはとても重要ですが、プロとは音楽を提供する側なのですからそれだけでは不十分です。
もしまだ消費者的な音楽の聴き方から抜け出せていないプロ志向の方がいるのでしたら、考えを改め深いレベルで音楽を聴けるように試行錯誤してみてください!